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生命は、なぜ金属を利用したのか

みなさんは、私たちの体をつくる細胞の奥で、たゆまず膨大な化学反応が進んでいることをご存知ですか?食べた栄養を分解してエネルギーをつくり、DNAを複製し、筋肉を動かす――これらの活動はすべて化学反応で行われているのです。
そして、実はこの化学反応を支えているのが、「金属」、すなわちミネラルなのです。

少し歴史をさかのぼってみましょう。
生命が誕生した、約40億年前の地球。原始の海には、鉄、銅、亜鉛、マグネシウムなど、さまざまな金属イオンが豊富に溶け込んでいました。これらの金属は、単なる鉱物ではありません。電子をやり取りしたり、分子の結合をゆるめたりする、生命にとって欠かせない性質を持っていたのです。

金属原子は、外側の電子をゆるく握っており、電子を失ったり受け取ったりすることが得意です。つまり、電子のやり取りを通じて、酸化と還元の反応を自在に行えるのです。これは、生命がエネルギーを生み出すうえで、欠かせない仕組み――例えば、呼吸における電子の流れ――にぴったりの特性でした。原始の有機分子たちは、金属イオンに出会うことで活性化され、反応を起こしやすくなり、やがて生命を育んでいったと考えられています。

さらに金属は、分子の結合をゆるめる魔法のような力も持ちます。たとえばマグネシウムイオンは、ATP(アデノシン三リン酸)という名前の「エネルギー分子」に近づくことで、ATP内の結合を少し緩めます。すると外からの作用で結合を手放しやすくなり、ATPが分解されて、活動エネルギーが生み出されるのです。このように金属は、電子を動かし、結合を整え、生命の化学反応を静かに後押ししています。

やがて生命は進化するにつれて、金属を積極的に利用するようになります。鉄や銅は酸化還元反応を担い、電子伝達系でATP合成を導く。亜鉛はDNAの構造を安定させ、マンガンは正常な糖代謝を促します。

ミネラルというと、「体に必要だから摂りましょう」といった健康情報として語られがちですが、その背景には、生命が誕生したころから続く、壮大な物語があったのです。

生命はなぜ金属を利用したのか――その答えは、40億年前の海の中にありました。生命体だけでは賄えないはたらきを、金属、つまりミネラルが支えくれるので、パートナーになったのです。そう思うと、一粒のミネラルにも、生命誕生からの歴史が息づいているように感じられますね。